医療DXとは?具体例やメリット、導入時の課題について
社会保障制度の持続可能性を高め、質の高い医療サービスを提供し続けるため、医療DXへの取り組みは今後ますます重要となります。この記事では、医療DXとは何か、また、具体例や導入のメリット・デメリットなどを解説します。

目次
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超高齢社会の日本で不可欠な医療DXとは?概要と目的
医療DXとは、保健・医療・介護の各段階において発生する情報やデータをデジタル化し、効率的に管理・活用する取り組みを指します。国民一人ひとりの予防活動を促進するとともに、医療の質を向上させ、医療現場における業務の効率化を実現する取り組みです。
日本は超高齢化社会に突入しています。国民の健康寿命を延ばして社会保障制度を持続可能なものにしていくことは国としての喫緊の課題です。将来世代が安心して暮らせる社会を構築するためにも、医療DXの推進は避けて通れない道といえます。
医療DXは経済産業省と厚生労働省が異なるアプローチで推進しています。
経済産業省が指すDXは、データとデジタル技術を活用し、既存の製品やサービス、ビジネスモデルを変革することで、企業が競争優位性を確立することです。その上で経済産業省の医療DXとは、保険証があれば医療機関を自由に選べるという「フリーアクセス」に基づき、医療サービスを高品質かつ迅速に提供するため、病院経営における課題の解決を目指します。
出典:「DX 推進指標」とそのガイダンス|経済産業省
一方、厚生労働省が指すDXは、より広範な医療情報基盤の構築を目指しており、全国の医療機関のシステムを相互接続し、患者情報を地域や施設を超えて共有できる仕組みづくりに重点を置いています。両省庁の目指すDXの範囲やゴールには違いがあるものの、いずれも医療の質向上と効率化という共通の目標に向けて取り組んでいることは確かです。
2022年には、自由民主党政務調査会が「医療DX 令和ビジョン2030」を提唱し、デジタル技術による医療変革の方向性を示しました。
このような背景を受け、日本政府は「医療DXの推進に関する工程表」を策定し、具体的な施策を進めています。その中核となるのが以下の3つの柱です。
- 全国医療情報プラットフォームの創設
- 電子カルテ情報の標準化等
- 診療報酬改定DX
工程表では、これらの施策を通じて医療機関同士の連携強化やデータの有効活用を図り、医療サービス全体の質を高めていく方針が示されています。
出典:医療DXについて|厚生労働省
医療DXの具体例
医療DXはすでに複数の具体的な取り組みが進められています。ここでは、厚生労働省が中心に推進している医療DXの具体例を紹介します。
出典:「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム|厚生労働省
オンライン資格確認(マイナ保険証)
オンライン資格確認は、医療DXの基盤となる重要な取り組みです。マイナンバーカードを保険証として利用することで、医療機関は患者の保険資格情報をオンラインですぐに確認できるようになります。
この仕組みにより、患者本人の健康・医療データに基づいた、より適切な医療サービスの提供が可能となります。医師は、全国医療情報プラットフォームから患者の過去の診療情報や服薬履歴などを簡単に参照できるようになるため、患者の状態をより正確に把握し、最適な治療方針を立てられます。
出典:オンライン資格確認について(医療機関・施術所等、システムベンダ向け)|厚生労働省
電子カルテ情報共有サービス
電子カルテ情報共有サービスは、全国医療情報プラットフォームの一部として組み組まれている仕組みです。全国の医療機関や薬局などで患者の電子カルテ情報を共有できるため、初診の医療機関であっても、患者の既往歴や治療経過を把握したうえで診療を行えるようになります。
情報が一元管理でき、医療機関同士での情報伝達の手間も削減されるため、特に救急医療の現場や複数の医療機関にかかっている患者の治療においては、より迅速かつ正確な医療提供を実現できます。
出典:電子カルテ情報共有サービス|厚生労働省
電子処方せん
電子処方せんは、従来の紙の処方せんを電子化し、オンラインで運用する仕組みです。複数の医療機関や薬局において直近に処方・調剤された薬の情報を参照できるため、重複投薬や薬物相互作用のチェックなどが容易になります。
患者は医療機関から薬局へ紙の処方せんを持参する必要がなくなり、薬局側も処方内容を事前に確認して準備できるため、待ち時間の短縮にもつながります。
出典:電子処方箋|厚生労働省
予防接種事務のデジタル化
予防接種事務のデジタル化は、マイナ保険証を活用してオンラインで接種対象者の情報を確認するなど、予防接種に関わる事務的な作業をデジタル化する取り組みです。従来は紙で記入していた予診票をスマートフォンで完結できるようになり、接種対象者の利便性が向上します。また、医療機関から自治体への費用請求手続きのオンライン化、接種履歴の確認や管理の効率化など、事務担当者の負担軽減が期待されています。
出典:予防接種のデジタル化|厚生労働省
診療報酬改定DX
診療報酬とは、医療機関が提供した医療サービスに対して支払われる報酬のことです。保険適用や補助金などによって算定が必要ですが、その算定や請求のルールは複雑化しています。
診療報酬改定DXは、デジタル技術を活用して医療機関における診療報酬事務の負担を軽減する取り組みです。厚労省が推進する「診療報酬改定DX」では、全国の医療機関が共同で利用できる統一されたレセプトコンピューター(レセコン)システム「共通算定モジュール」の構築が進められています。
診療報酬の算定ルールや改定内容を一元的に管理・更新できるようになれば、診療報酬改定時に各医療機関が受けるシステム改修の負担が軽減されます。また、共通算定モジュールを導入することで、各医療機関の請求業務の自動化や効率化が図られ、医療機関の事務負担も軽減されます。これにより、医療従事者が本来の医療業務に集中できる環境が整えられます。
出典:診療報酬改定DX対応方針|厚生労働省
医療DXに取り組まないとどうなる?
医療DXへの対応を先送りにすると、さまざまな課題に直面する恐れがあります。
厚生労働省が推進する医療DXは、全国の病院システムを相互に連携・共有できる状態を実現し、患者の診療情報をどの医療機関でもスムーズに参照できる仕組みを目指しています。この取り組みに対応しないままでいると、医療機関にも患者にも深刻な影響が生じます。
まず、医療機関の間での情報共有が不十分な状態では、患者の過去の治療歴や投薬履歴を正確に把握できなくなります。その結果、薬の重複投薬や危険な飲み合わせの見落とし、既往症を考慮しない処置といった医療安全上のリスクが高まります。救急搬送時や転院時にも必要な情報がすぐに得られず、適切な治療開始が遅れる可能性があります。
また、紙カルテや手作業による業務を続けていると、情報共有や事務処理に多くの時間を要し、医療現場の負担はますます増大します。超高齢化社会に直面し医療が必要な患者数が増加していくなかで、アナログ業務が温存されたままでは、医療従事者の疲弊を招き、医療サービスの質にも影響を及ぼしかねません。
患者側にとっても、医療機関ごとに同じ検査を繰り返し受けなければならない、紙の診察券や処方せんを複数管理しなければならないといった不便が解消されません。デジタル化が進んだ医療機関では、予約や問診がオンラインで完結し、診療データもスマートフォンで確認できる一方で、対応が遅れた医療機関では従来通りの煩雑な手続きが残ります。
こうした利便性の格差が広がれば、対応が遅れた医療機関は患者から選ばれにくくなります。加えて、政府が推進する新たな制度への対応や診療報酬の改定、各種補助金の申請などにリソースが取られ、医療DXを進めようにも進められない負のループに陥るリスクがあります。
さらに、医療DXを積極的に推進する医療機関との格差が拡大すれば、業務効率の面でも大きく後れを取ります。限られた人員で効率的に業務を行うためにも、今のうちからシステム連携やデジタル化による業務改善に取り組むことが求められています。政府が推進する新たな制度への対応が遅れれば、診療報酬の算定や各種補助金の申請などで不利益を被る恐れもあるでしょう。
医療DXに取り組むメリット
医療DXの推進は、医療機関と患者の双方に多くのメリットがあります。
医療関係者の業務負担を軽減できる
医療DXでは、医療機関ごとに管理されている電子カルテや診療情報を連携し、必要な情報を迅速に参照できる仕組みの整備が進められています。これにより、患者の既往歴や処方履歴を他院の情報も含めて確認でき、問診や情報収集の手間が削減されます。
さらに、診療報酬請求や各種事務手続きのデジタル化も進むことで、医療従事者の事務作業の負担が軽減され、診療や患者対応により多くの時間を充てられるようになります。
患者サービスの質が高まる
医療DXは、医療サービスを受ける患者側にも多くのメリットがあります。具体的には、予約システムのデジタル化により自分の都合に合わせて予約を取りやすくなる、受付や会計処理の自動化により待ち時間が短縮されるなどです。
また、オンライン診療を活用すれば、通院が困難な患者や遠隔地に住む患者でも診療が受けられるようになります。これにより、症状の深刻化を防ぐ効果も期待できます。
データ活用で予防医療を推進できる
予防医療は、医療費の抑制にもつながる重要な取り組みです。検査結果や診療履歴をデジタルで管理できれば、患者の健康状態の変化を把握しやすくなり、データ分析による疾患リスクの早期発見・予防措置といった予防医療の推進につながります。また、蓄積されたビッグデータを活用することで、病気のリスク因子を予測する、新たな治療法や新薬の開発に活用するなど、さらなる予防医療の促進効果も見込まれています。
医療データを効率的に管理できる
クラウドシステムを活用すれば、紙カルテよりも安全にデータを保存・共有でき、物理的なスペースの確保も不要となります。データ検索も容易になるため、医療データを効率的に管理できるようになるでしょう。他の医療機関から資料を取り寄せられるため、過剰や検査や投薬の重複を避けることにもつながります。
BCP(事業継続計画)の観点でも、クラウドであれば災害時のバックアップがしやすく、万が一医療機関が被災した場合でも患者のデータを保護できます。他の医療機関との連携も容易となり、患者の病院移転もスムーズに進められます。
医療DXの導入方法
医療DXの取り組みには、金銭的にも時間的にもコストがかかります。効果的に導入するために、以下にご紹介するステップを踏みながら進めましょう。
基本的なDXの場合
基本的なDXの進め方を理解しておくことで、自院に適した医療DXを進めやすくなります。
自院の課題を抽出する
まずは、自院における業務上の課題を明確にすることから始めましょう。診療記録の管理、会計処理、予約管理、スタッフ間の情報共有など、DX化によって改善できる業務を洗い出します。
その際は、現場のスタッフからヒアリングを行い、実際に困っていることや非効率だと感じている業務を把握することが重要です。課題が明確になれば、どのようなシステムやサービスが必要か見えてきます。
サービスやシステムを選定する
抽出した課題に対応できるサービスやシステムを比較検討します。自院の規模や診療科に合った機能を備えているか、既存のシステムとの連携は可能か、サポート体制は充実しているかなど、多角的に評価しましょう。
コストに関しては、初期費用だけでなく、月額利用料や保守費など、長期的なコストを見積もります。複数のベンダーから見積もりを取り、PoC(概念実証)を実施するなどして費用対効果を確認しましょう。
また、サービスやシステムの稼働に必要な環境も確認しておきましょう。例えば、オンライン資格確認システムの導入には、導入する各エリアに顔認証付きカードリーダーや機器を接続するネットワーク環境が必要です。
出典:ネットワーク整備を含むオンライン資格確認導入に向けた準備作業の手引き|厚生労働省
段階的に導入する
優先度の高いものから順に、機器やシステム構築の発注を行います。小規模な範囲で試験的に導入し、問題点を確認しながら本格導入へと移行していく方法が効果的です。
新しいサービスやシステムを活用するためには、サービスやシステムを導入するだけでなく、医師・看護師・事務職員など各スタッフが問題なく使いこなせるよう教育する必要があります。操作方法をマニュアルやガイダンスで説明するほか、セキュリティ意識の向上も重要なテーマとして扱いましょう。
操作マニュアルは、厚生労働省で展開しているシステムであれば厚生労働省のマニュアルを参照できます。独自システムであれば、システム事業者から提供される操作マニュアルを確認しましょう。
医療DXの導入と展開に関しては、専門知識を持つ外部リソースを活用することも効果的です。コンサルタントやシステムベンダーのサポートを受ければ、よりスムーズに取り組みを進められます。
定期的に評価・改善する
導入後も運用状況を定期的にチェックし、改善を重ねていくことが重要です。スタッフからの意見や患者の満足度調査を元に、システムの使い勝手や業務フローを見直しましょう。
また、患者向けのシステムであれば、患者向けにポスターやリーフレットなどで利用促進ができているかも大切です。よいシステムを導入しても、利用されなければ効果が得られないため、利用促進の取り組みにも注力しましょう。
技術の進歩は速く、システムの更新や新機能の追加も適宜検討が必要です。定期的な評価によって医療DXの効果を最大化できれば、継続的な業務改善につなげられます。
医療DXの場合
医療DXは、1つの医療機関で完結する取り組みではなく、全国の医療機関や薬局、自治体などと情報を連携することが前提です。ここでは、医療DXを進める際に意識すべきポイントを紹介します。
医療情報の標準化に対応する
電子カルテ情報共有サービスなどでは、医療情報の標準化への対応が求められます。医療機関ごとにデータ形式やシステム仕様が異なると、他院との情報共有が困難になるからです。
データ形式やコード体系を共通化することで、患者の診療情報や検査結果、処方履歴などを安全かつ効率的に共有できるようになります。将来的な医療機関間の連携を見据えた、標準化に対応したシステムを選定しましょう。
ガイドラインに沿ってセキュリティ対策を行う
患者の診療情報や個人情報を扱うため、医療DXには高度なセキュリティ対策が欠かせません。厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」などに沿って、情報管理体制を構築する必要があります。
アクセス権限の管理や通信の暗号化、ログ管理、定期的なセキュリティ点検などを実施し、サイバー攻撃や情報漏えいのリスクを最小限に抑えましょう。システム導入時だけでなく、運用段階でも継続的な対策が求められます。
出典:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版(令和8年6月)|厚生労働省
医療DXの導入時の課題

医療DXには多くのメリットがある一方、導入時にはいくつかの課題も存在します。導入前にそれらの課題を認識しておきましょう。
基本的なDXの場合
DX化にあたって業種を問わず発生する共通の課題があります。一般的なDX導入で想定される課題を理解しておくことで、医療DXへの対策を立てやすくなります。
導入コストがかかる
医療DXの導入には、システムの調達費や運用費、スタッフの研修費など、相応のコストが発生します。特に大規模な医療機関では多額の初期投資が必要になる場合があります。
コスト面での負担を軽減するためには、経済産業省の「IT導入補助金」などの公的支援制度を活用するとよいでしょう。補助金の申請条件や手続きを確認し、積極的に活用すれば、導入のハードルを下げられます。
スタッフのITリテラシーが求められる
医療DXに取り組んでも、スタッフのITリテラシーが低い状態だと、システムを十分に活用できない恐れがあります。むしろ、ウイルス感染や不正アクセスなど別のトラブルにつながるケースも考えられます。
医療DX導入後のトラブル防止のためには、人材教育を通じてITリテラシーの向上を図ることが重要です。定期的な研修やマニュアルの整備、質問しやすい環境づくりなど、スタッフが安心してシステムを使える体制を構築しましょう。
セキュリティ体制の構築が欠かせない
医療データは極めて機密性の高い個人情報です。サイバー攻撃などによってそうした情報の漏えいを防ぐためには、強固なセキュリティ体制を構築する必要があります。
自院だけで万全の対策を講じることが難しい場合は、外部のサイバーセキュリティ対策サービスを活用するとよいでしょう。専門家のサポートを受けることで最新の脅威に対応した防御策を実施でき、安心してシステムを運用できます。
医療DXの場合
一般的なDXの課題に加え、医療DXでは医療分野特有の課題にも対応しましょう。
医療機関間のシステム連携が求められる
医療DXでは、全国医療情報プラットフォームを通じて医療機関や薬局、自治体などの連携を前提としたシステム構成が求められます。既存システムとの互換性や医療情報の標準化への対応、ネットワーク環境の整備などが課題になるでしょう。
例えば、電子カルテ情報共有サービスでは、患者の診療情報や検査結果などを複数の医療機関で閲覧・共有できる仕組みの整備が進められています。これにより初診の医療機関でも、既往歴や処方履歴を把握した診療が可能です。
デジタルデバイドへの配慮を要する
デジタルデバイドとは、デジタル技術を利用できる人とできない人の間に生じる格差のことです。
高齢者を中心に、デジタルツールの操作に不慣れな患者はまだまだ多く存在します。デジタル化を進める際には、こうした患者層に対する配慮が求められます。操作が複雑なシステムは避けて直感的に使える設計を選ぶことや、スタッフによるサポート体制を整えることが必要です。また、デジタルツールを活用できない人にも質の高い医療を提供できるよう、従来の方法との組み合わせや使い分けも検討しましょう。
医療DXのセキュリティ対策を助ける専門サービスとは?
医療DXを安全に推進するためには、セキュリティ対策が欠かせません。厚生労働省が展開するプラットフォームやシステムを使う場合でも「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版」の遵守が求められ、医療機関独自でシステムを構築する場合には「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」などへの対応が求められます。サイバー攻撃の手口は日々進化しているため、上記のガイドラインやチェックリストに対応しつつ、最新の知識を持つ専門家のサポートを得ることも重要です。
そこでおすすめしたいのが、パーソルクロステクノロジーの医療機関向けセキュリティ健康診断サービスです。
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サービス:医療機関向けセキュリティ健康診断サービス
医療DXで持続可能な医療体制を築こう
超高齢社会を迎えた日本において、医療DXの推進は重要な課題です。デジタル技術を活用して業務を効率化し、医療の質を向上させることは、医療従事者と患者の双方に多くのメリットをもたらします。導入には課題もありますが、段階的なアプローチと適切なサポートを受けることで、着実に成果を上げられます。
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