プラントモデルと制御モデルの違いとは?MBD(モデルベース開発)との関係、作成方法も解説

技術開発・ソリューション
近年、開発の効率化や品質向上を支えるため、自動車産業などでMBD(モデルベース開発)が活用されています。MBDの効果を最大化するには、モデルの基本概要や違い、目的に応じた作成プロセスまで、正しく理解することが重要です。

このMBDの中核をなすのが、プラントモデルと制御モデルです。この記事では、プラントモデルと制御モデルの違い、活用事例や作成方法の種類などを解説します。

目次

    パーソルクロステクノロジーのモデルベース開発(MBD)

    パーソルクロステクノロジーのモデルベース開発(MBD)では、要求分析から基本設計、試作、実験、評価・認証試験まで一気通貫で支援可能です。自社のリソース不足を解消し、MBDを成功に導きたいお客さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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    プラントモデルと制御モデルの違い

    制御システムは一般的に「制御対象(プラント)」と「制御装置(コントローラー)」から構成されます。その上でプラントモデルと制御モデルは、制御される側がプラントモデル、制御する側が制御モデルという関係性を持っています。

    プラントモデル制御モデル
    定義制御対象(物理システム)の動的挙動を数式で記述したモデル制御対象を想定通りに動かすため、制御アルゴリズムを数理的に記述したモデル
    代表例エンジン、ブレーキ、モーター、ロボット機構などPID制御、状態フィードバック制御、モデル予測制御など
    役割制御対象の応答を再現する制御対象の操作量を算出する
    入力/出力入力:操作量・外乱
    出力:状態量・応答
    入力:目標値・状態量
    出力:操作量

    MBD(Model Based Development:モデルベース開発)では、この2つのモデルを連携させることで、実機を試作する前段階での検証が可能になります。

    プラントモデルとは

    プラントモデルとは、プラント(制御対象)の動的挙動を数式で記述したモデルです。エンジンやモーター、油圧系などの物理システムを数学的に表現し、入力(操作量や外乱)に対する出力(状態量や応答)を再現します。

    ここでいうプラント(Plant)は制御対象を示す用語であり、モデル(Model)はその挙動をシミュレーション可能にするために数学的に記述する仕組みです。

    仮想環境上で物理挙動を再現できると、実機を導入する前段階での動作確認・検証が可能となり、制御システム開発の効率化に寄与します。自動車のエンジンやブレーキシステム、自動運転などの最先端制御システム、ロボットアームなどの産業機械、発電所やエネルギーシステム、航空機・宇宙機などのシステム開発に活用されています。

    制御モデルとは

    制御モデルとは、制御対象を目標値に合わせるため、制御アルゴリズムを数理的に記述したモデルです。PID制御や状態フィードバック制御、モデル予測制御(MPC)などが該当します。入力された目標値や状態量に基づき、操作量を算出する役割があります。

    プラントモデルと連携させることで、制御システムの挙動や性能を事前に検証・評価できるため、MBD(モデルベース開発)に欠かせません。

    プラントモデル・制御モデルとMBD(モデルベース開発)の関係

    MBD(モデルベース開発)は、仕様書の内容をコンピューター上で仮想的にシミュレーションする手法です。従来のように実機を試作して検証するのではなく、開発初期からモデル検証を行うことで、品質向上と開発効率化を同時に実現します。

    MBDにプラントモデル・制御モデルを連携させると、仮想環境上で制御システム全体の挙動を把握でき、従来の開発手法で指摘されていた手戻りの多さやコスト増加などの課題解消につながります。

    プラントモデルと制御モデルは、MILS(モデル同士での検証)やSILS(実装ソフトウェアでの検証)、HILS(実機ハードウェアと接続した検証)などのシミュレーションでも用いられ、開発フェーズに応じた検証が可能です。

    MBDについては以下の記事でも詳しく解説しています。
    MBD(モデルベース開発)とは? 導入のメリットや課題、成功のコツを解説

    プラントモデルや制御モデルの活用事例

    プラントモデルや制御モデルは、仮想環境上の検証や制御設計が必要な分野で広く活用されています。ここでは活用事例を2つ解説します。

    プラントモデルによる検証業務

    パーソルクロステクノロジーでは、MATLAB®/Simulink®を活用することで実機に依存しないシミュレーション環境での検証業務を実現しました。プラントモデル開発の経験がない場合でも、蓄積したエンジンベンチや実車両の計測データを反映することで、プラントモデルの精度向上を図ることを可能とした事例です。

    エンジンベンチや実車両の測定結果を反映することで、構築したモデルの精度を高め、トランスミッションの油圧系プラントモデルを構築して、油圧や流量の検証に活用。さらに、車両1台分の簡易モデルを作成し、基本走行での動作確認まで実行しました。

    実車両データの計測からプラントモデル作成までのプロセスを一括開発することで、開発コストの大幅削減を果たしています。

    事例:MATLAB®を用いたプラントモデルによる検証業務

    油圧制御モデル・変速制御モデルの作成と検証

    トランスミッションを対象とした油圧制御モデルおよび変速制御モデルの作成と検証業務の事例もあります。車載ECUの新規開発においてMATLAB®/Simulink®で制御モデルを構築。MILS環境を整備することで、実機を使わずに挙動や性能をシミュレーションできるようにしました。

    制御モデルの作成から検証、評価、テストシナリオ、検証結果まで一括対応することで、開発コストの削減と開発人員やノウハウ不足の課題解決に効果を発揮しています。

    事例:MATLAB®を用いたトランスミッションの油圧制御モデルと、変速制御モデルの作成、検証

    MBDでプラントモデルを作成するメリット

    MBDでプラントモデルを活用すると、シミュレーションによる検証が設計段階から可能となり、開発コストの削減や性能向上、安全性強化などのメリットが期待できます。

    開発コストの抑制

    MBDでは、設計段階からのシミュレーション検証が可能です。プラントモデルを活用すると仮想環境で挙動確認ができるため、実機に依存する従来の手法よりも試作費の抑制に貢献します。また、実機評価前にシミュレーションを重ねることで設計の手戻り回数や評価工数を削減でき、開発の効率化につながります。

    制御システムの性能アップ

    プラントモデルを用いるシミュレーションにより実機評価前に課題や不具合を洗い出せるため、制御システム設計の完成度が高まります。

    そもそも、モデルの正確性を担保するためには、物理特性や摩擦係数、流量などのパラメーターを適切に調整しなければなりません。その際、実測データとの整合性を踏まえてチューニングすることで、より現実に近い挙動の再現を可能とし、制御ロジックの最適化が期待できます。

    事故リスクの低減

    プラントモデルを活用すると、実機ではリスクの高い条件における危険な動作を、安全な仮想環境下で再現・検証できるようになります。実機を用いた検証では事故や装置破損による人的被害やコスト損失が懸念されますが、MBDを活用すればこれらのリスクを低減できます。

    安全性を高めれば、開発品質の安定化だけでなく、事故リスクをいち早く察知できるようにもなり、計画的なメンテナンスや予測保全の強化にも効果を発揮します。

    プラントモデルの作成方法の種類

    プラントモデルの作成方法には大きく3種類あります。以下は代表的な活用例です。

    実際には開発目的やフェーズに応じて、ホワイトボックスモデル、ブラックボックスモデル、グレーボックスモデルを使い分け、あるいは組み合わせて活用します。モデル選定は、要求精度、開発フェーズ、利用可能データ、計算資源などを総合的に考慮して決定されます。

    メリットデメリット主な用途例
    ホワイトボックスモデル
    • 論理的根拠に基づくため一般化しやすい
    • 未観測でも予測できる
    • 外部システムと連携しやすい
    • 数学や物理法則など専門性の高い知識が求められる
    • 物理挙動の理論解析
    • 構造設計段階の検証
    ブラックボックスモデル
    • 高精度が期待できる
    • 物理法則の知識がなくても構築できる
    • 複雑なシステムと連携しやすい
    • 保有データに依存する
    • データ駆動型予測
    • 劣化診断
    グレーボックスモデル
    • 論理的根拠に基づくため一般化しやすい
    • 未観測でも予測できる
    • データを活用すると高精度が期待できる
    • 物理モデルとデータモデルの統合が困難な場合がある
    • 実機データ補正を含む制御設計

    ホワイトボックスモデル(物理モデル、第一原理モデル)

    ホワイトボックスモデル(物理モデル、第一原理モデル)は、ニュートンの運動方程式やキルヒホッフの法則などの物理法則を数式化する手法です。物理現象を踏まえてシステムを構築するため構造や特性が明快になり、論理的根拠のあるモデルを作成できます。

    また、未観測の条件でも予測可能で、他システムへの応用やメンテナンス、予測保全の強化など、さまざまな活用方法があります。

    ブラックボックスモデル(統計モデル、同定モデル)

    ブラックボックスモデル(統計モデル、同定モデル)は、実験データを統計手法や機械学習に応用し、入力と出力の関係性を導き出す手法です。内部構造を細かく定義する代わりに取得データからパラメーターを推測するため、実機の挙動再現の精度を高められます。

    また、物理モデルほどの深い理解がなくても構築が可能であり、複雑なシステムにも適用しやすいとされています。

    グレーボックスモデル

    グレーボックスモデルは、ホワイトボックスモデルとブラックボックスモデルを組み合わせたハイブリッドな手法です。まずは物理法則に基づく基本モデルを構築し、不明なパラメーターや複雑な挙動はあとから実験データを用いて補完することになります。

    理論的整合性と実測データの適合性を両立できる点が強みで、未観測の条件への予測性能でも一定レベル以上の精度を確保できます。ただし、計算負荷やデータ品質に悪影響を及ぼすおそれもあるため、物理モデルとデータモデルを統合する際には注意が必要です。

    プラントモデルの作成方法

    プラントモデルの作成方法の流れは以下のとおりです。

    作成手順詳細
    ①対象システムを調査するモデル化する装置や機構の構造・特性・挙動を整理して目的と範囲を明確にする
    ②作成方法の種類を選定するホワイトボックスモデル、ブラックボックスモデル、グレーボックスモデルから選ぶ
    ③モデルを構築する選択した作成方法に基づき、物理方程式による数式化または実験データ取得を行う
    ④モデルのパラメーターを調整する実測データとの整合性を確保するためにパラメーターを調整して最適化する
    ⑤モデルの精度を確認するシミュレーション結果と実機データを比較して妥当性と再現性を確認する
    ⑥制御システムに適用する構築したプラントモデルを制御設計に反映して、検証や品質向上に活用する

    プラントモデルの作成方法は種類ごとにメリットとデメリットが異なるため、開発目的や環境に合わせて選定してください。自社のみで判断が難しい場合は、プラントモデルの構築や作成に関して知識と経験が豊富な外部の専門家によるサポートを受けることも検討しましょう。

    プラントモデル作成の注意点

    続いて、プラントモデル作成の注意点を5つご紹介します。

    モデル化の目的を明確にする

    目的によって求められる精度や粒度は異なるため、モデルを作成する前には適用範囲と限界を明確に定めましょう。条件に対する有効性を定義せずに構築すると、想定外の状況で期待する結果が出ない可能性もあります。

    例えば、低速走行のみを前提とする自動車モデルや高温環境を想定しない電池モデルの場合、適用条件外の状況では精度を保証できません。

    モデルの精度と計算負荷のバランスを取る

    プラントモデルは精度を高めるほど実機に近い挙動を再現できます。しかし、過度に高い精度を追求すると、シミュレーション時間や計算コストの増加、モデルの複雑化などを招き、実務で使いにくくなるおそれがあります。

    特に、リアルタイム制御やHILSの適用を想定する環境下では計算負荷とのバランスが重要となるため、目的に応じて必要十分な精度を見極めてください。

    実機データとの整合性を確認する

    作成したモデルの妥当性を確保するためには、実験データや実測値を用いてシミュレーションの妥当性を確認するプロセスが欠かせません。実機データとシミュレーション結果の一致度から精度を高めたり、特定の条件下で異常や極端な結果が出た場合に原因を特定したりして、迅速に修正する必要があります。

    異なる入力条件や外乱を与えるシナリオテストからは、モデルの再現性や信頼性を総合的に検証できます。

    パラメーターの妥当性に注意する

    パラメーターが不正確だと信頼性の低下を招くため、推定方法や前提条件を明確にした再現性のある管理体制が求められます。物理特性や摩擦係数、流量、温度特性などの設定値は、実測データとの整合性を確認しながら調整しましょう。

    また、物理法則に基づく推定が必要な場合は、単純なデータフィッティングに依存せず、環境条件の変化を考慮して妥当性を検討する必要があります。

    保守・再利用しやすいモデル設計にする

    プラントモデルは作成して終わりではありません。モジュール化や構造の整理を行い、誰が見ても理解できるような設計にすることで、長期的に保守・再利用しやすいモデルに仕上げられます。また、変更履歴を記録するバージョン管理を徹底し、過去の状況と比較できるようにすることも不可欠です。

    開発チーム内で情報を共有して適切にメンテナンスすれば、継続的な品質維持と業務効率化につながります。

    MBD(モデルベース開発)の導入から運用まで支える専門サービス

    MBDは従来のように実機を用いた開発よりも品質や生産性の向上が期待できる一方、プラントモデルに関する基本概要の理解、モデル作成の種類選定、品質レベルの判断など、一定レベル以上の専門知識が求められます。自社のみでMBDの導入や運用が困難な場合は、目的に応じた開発計画の提案から導入後の定着まで包括的に支援する専門サービスの活用が有効です。

    パーソルクロステクノロジーでは、モデルベース開発(MBD)やMBD教育サービスを提供しています。

    モデルベース開発の場合、自動運転/ADAS関連、駆動系、エンジン系、ボディ系、電気動力系、シャシー系など、幅広い分野で業務実績があります。またMBD教育サービスは、MBDを初めて触るエンジニアに向けて、半日〜約5日で終了するカリキュラムの提供が可能です。

    サービス:MBD教育サービス
    サービス:モデルベース開発(MBD)

    プラントモデル・制御モデルの活用で開発精度を向上させよう

    プラントモデルと制御モデルは、MBD(モデルベース開発)において中核となる要素です。両者を連携させることで、実機の試作前に仮想環境上で性能や安全性を検証できます。

    設計初期から課題を可視化し、手戻りや試作コストを削減できるのも大きなメリットです。適用範囲の明確化や精度管理、実測データに基づくパラメーター調整を徹底することで、開発効率と品質を同時に高められます。

    MBD(モデルベース開発)でお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

    サービス:MBD教育サービス
    サービス:モデルベース開発(MBD)

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